堺市文化館 アルフォンス・ミュシャ館

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2021/08/29 (日) 特集

観どころ、聴きどころ♪『川口成彦フォルテピアノリサイタルシリーズ2021』

川口成彦フォルテピアノシリーズ2021の大目玉、
作曲家杉山洋一氏への委嘱新作委嘱初演


フェニーチェ堺では2020年から川口成彦さんによるフォルテピアノのシリーズが始まっています。クラシックファンにとってお馴染みのベートーヴェン、シューベルト、ショパンといった作曲家が作ったピアノ曲は、すべてこのフォルテピアノを想定して作られたものです。その後ピアノは発展して現代のピアノに至り、クラシック作品も現代のピアノで演奏されるのが普通になっています。その発展の方向は2000席のホールの隅々にまで響き渡る音量と、スムーズなムラの無さといったところでしょうか。それは結局各時代の聴衆が選び取ったものであり、もちろんその必然性はありました。大音量を浴びるのは快感ですものね。
 

でも、ベートーヴェン、シューベルト、ショパンを本当にお好きなら、彼らが接して想定した楽器で聞いてみるのは興味深い、と思っていただけるのではないでしょうか。大ホールではなく小さなサロンで演奏されるのが通常だった当時は聴衆と楽器の距離もはるかに近いものでした。楽器の周りにぐるりと聴衆がいた感じです。そうすると轟然とした音はしなくても十分迫力やメリハリも出ます。さらに繊細さやしっとり感なども出しやすいでしょう。

現代のピアノに慣れた耳からすると、最初はとまどっても段々と別方向の魅力にとらえられるかもしれません。川口成彦さんは現代ピアニストのトップ級に匹敵する技術を持ちながら、各時代の知的素養も十分に持ち、さらに今の音楽ファンの耳も持った、総合的に優れたアーティストです。その川口さんにより新しい光をあてられたクラシック作品を聞くと次には、そんなに興味深いアーティストと楽器なら、ずばり「その組合せのために現代のいい作曲家に作品を創りおろしていただければ、どんなに素晴らしいか」と思わざるをえません。それでこそ、フォルテピアノも現代に本当の意味で蘇ると言えるでしょう。

作曲家に新作を頼む、委嘱する、となると「ゲッ現代音楽かよ!」と恐怖感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。でもすべてのクラシック作品も作られたときは現代音楽作品で、間違いなく半数以上の作品の初演時は「わけがわからない」と不評で、初演予定演奏家に演奏拒否されたり、客が半分帰ってしまったり、さんざんな思いを経て今日に至っています。それを超えたエネルギーを持つ本物がその後、多くの方々に愛されているわけです。 

今回作曲を担当するのは杉山洋一さん。フェニーチェ堺オープニングでも武満企画をまとめあげた指揮者、プロデューサーです。彼はミラノのクラウディオ・アバド音楽院(古楽の世界的名門でもあります)の作曲、指揮のプロフェッサー。イタリアはもちろんヨーロッパ各地で名声をあげているお一人で、その作品は世界各所で演奏されています。川口さんもまたアムステルダムに住みヨーロッパ各地で活動していますから、今回の委嘱新作は、堺での初演後はヨーロッパ各地で次々と演奏されるでしょう。川口さんのみならず、他の海外のフォルテピアノ奏者も続けて取り上げてくれそうです。

その各地で演奏された楽譜にはcomissioned by Fenice Sacayと書かれています。堺でまかれた種が海外も含めた広い地域に文化遺産を残すわけです。カーネギーホールだってどこだって、こういう様々なことの積み重ねで市民の誇りとなっていくわけですね。「ものの始まりなんでも堺」だそうですが、それに連なる異色なクリエイテイブな達成が今回の委嘱新作初演と言えるでしょう。 

杉山さんも川口さんもフェニーチェ堺のハードとソフト(スタッフ、企画など)に好印象を持っています。それは作品、演奏のどこかに滲むものでしょう。最初わからなくても、複数回接することにより、じわじわと感じられるかもしれません。文化はアーティストだけが作るものではありません。ホール、スタッフ、聴衆、一般市民一体となって育て蓄積していくものです。その具体的な好例とも言えるのが今回の委嘱新作初演です。皆で楽しみましょう。


平井 洋

川口成彦フォルテピアノリサイタルシリーズ2021「Contemporaries-同時代人の肖像-」公演ページ
https://www.fenice-sacay.jp/event/kawaguchinaruhiko2021/                                                     

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